2010年12月26日日曜日

S0702_教科教育方法数学1

~使用教材~

 『数学教育実践入門』



~リポート作成の際に注意した点~





~S0702_教科教育方法数学1_リポート作成例(評点:A)~

(設題1)
数学教育の目標と評価について述べ、それらを自分の視点で考察せよ。


1.数学教育の目標
数学教育の目標は、次の3つの立場から考えることができる。
①国が定める基準としての目標
②数学教育学研究の立場からの目標
③海外の教育との関係における目標


~国が定める基準としての目標~
これは学習指導要領から見る目標である。学習指導要領における目標は、数学学習によって数学の原理を獲得し、それを現実の事象に適用、その有用性を認識することで積極的に取り組む態度を育成することにある。すなわち、数学への関心・意欲・態度、数学的な見方・考え方、表現処理、知識・理解の習得が目標とされる。
実用性の観点から、理工系必須科目である数学は、常にその応用を意識する必要がある。例えば、物理学において波は三角関数で、運動は微分方程式で表され、また量子力学の分野では波動関数の記述に複素数が用いられる。教科指導においても、その単元の応用に触れることで「一体何のためにそういうことを行うのか」という疑問に生徒が疲弊することを予防し、また知的好奇心を刺激することにも繋がるものと考える。


~数学教育学研究の立場からの目標~
数学教育学とは、生徒の理解の特徴を各年齢段階によって集約・整理・分析するものである。生徒の理解は、社会の変容に影響を受け、この変化に対応した数学カリキュラムの作成が数学教育学の目標であり、またその結果を反映することが数学教育の目標となる。


~海外の教育との関係における目標~
これは海外の数学カリキュラムと比較して日本のカリキュラムを客観的に評価すると共に、国際的な動向を踏まえてその方針を設定することが目標である。

ここまでに数学教育の目標として、数学的思考力・応用力の習得と数学教育の発展及び国際的観点からの評価があることを見た。これらの内容は、教員だけでなく生徒もまた理解していることが目標達成には有効である。

2.数学教育の評価目的
数学教育の評価の目的は、生徒の学習の状況を把握し、その後の指導・学習計画立案に反映することにある。学習の状況は、学習履歴、学習成果を測定することで把握できる。以下では、数学授業の準備、実践、事後の各段階において、これらの評価をどのように行うかについて考察する。


~指導前における評価目的~
適切な指導計画のためには、通常レディネスと言われる各生徒の学習状況の正確な評価が必要である。この評価結果をもとに、生徒に応じた指導計画を設定することが可能となる。


~指導過程における評価目的~
教科指導では、生徒の反応を的確に把握し、理解度を評価する必要がある。この評価に基づいて、授業途中に生徒の理解が不十分であると判断した場合は、計画通りに進めるのではなく、理解不十分な点にまでさかのぼって指導することが大切である。すなわち、指導過程における評価は、実際の指導時の細かな軌道修正と、指導計画等の事前準備の妥当性を検証するものとして機能する。


~指導後における評価目的~
指導後の評価は、単元終了時または学期末等にペーパーテストの形式で実施する。この評価は、集団としての評価と個人の評価の双方を行う必要があり、前者は今後の指導計画立案に役立て、後者は個人への適切な指導へと役立てるものである。
特に個人の評価は、各生徒本人がその内容を理解していることが重要である。生徒自身が自分の学習の質を客観的に評価できることは、生涯にわたる自己成長に必須な観点であり、その方法を知ることは極めて有益である。例えば、学習時間の記録、ペーパーテストの結果の分析、授業内での活動の積極性など、次の3.で述べる評価方法について客観的に自己評価できるよう指導したい。


3.数学教育の評価方法
数学学習の習熟度を次の5段階に分け、生徒がどの段階にいるのかを評価または目標の指標とすることができる。
①原理の獲得:数学の原理が獲得され、その原理に基づく概念や性質・法則が把握された段階
②技能と習熟:概念・法則の活用が自在にでき、技能として習熟された段階
③数学的発展:①と②の学力を基礎に数学を創るまでに高まった段階
④単一的応用:数学を応用問題の解決に役立てることができる段階
⑤総合的応用:数学を自然や社会の広範な問題の解決に活用できる段階
これらの段階のどこにいるのかを評価するためには、行為動詞による評価項目の明確化が有効である。行為動詞には、次のようなものがある。
・技能的行為動詞:手順に沿った機械的な作業をする際に用いる動詞
・認知的行為動詞:作業過程で判断をする際に用いる動詞
・思考的行為動詞:認知的行為動詞から、より判断を求められる動詞
・ 創作的行為動詞:創造的な活動をする際に用いる動詞
・ 社会的行為動詞:他者に向かって様々な形で発信・受信する際に用いる動詞
行為動詞と学習指導要領に示される数学教育の目標、すなわち数学への関心・意欲・態度、数学的な見方・考え方、表現処理、知識・理解の習得は次のように対応付けて評価することができる。
・社会的行為動詞:関心・意欲・態度に類する項目
・創作的行為動詞:見方・考え方に類する項目
・技能的行為動詞:表現処理に類する項目
・認知的行為動詞:知識・理解に類する項目
教育や評価に対する説明責任が求められてくることを考えると、評価方法の明確化と客観性の確保を図ると共に生徒にもその内容を示すことが必要である。また、評価項目や評価基準をあらかじめ生徒にも示し、学習の進捗状況、達成状況をリアルタイムで把握できるようにしながら学習が進められるのが望ましい。
その目的のためには、各評価項目を視覚化するのが有効であると考える。学習時間、分野ごとの理解の傾向と度合い、学習効率を数値化しグラフ化するなど、生徒が自分の理解の特徴を目に見える形で把握することは、学習意欲の増進に役立つほか、数学教育学的見地から見ても必要なことである。

目標と評価は、自己成長を図る上で必ず必要な要素である。これは教科教育のみならず自己実現の必要条件となる。教科指導においては、この大きな目標を意識しつつ、学ぶ方法を指導できるよう心がけたい。



(設題2)
集合・論理、数、代数、幾何、関数、微分・積分、確率・統計の中から一つを取り上げ、その内容の要点を記述するとともに、自分の視点で考察せよ。
ここでは「微分・積分」すなわち解析学を取り上げ、教科指導におけるその内容の要点を考察する。


1.解析教育の目標
まず始めに、関数、微分、積分の教育目標をまとめ、その後に各内容の要点と注意事項について考察する。


~関数の目標~
関数の目標は、現象の変化を数値として抽出することにある。つまり、変化する現象から伴って変わる2変量の対応を捉え記述することである。記述方法は、基本となる数の対応表から始まり、数式での定式化やグラフによる視覚化へと進む。


~微分の目標~
微分の目標は、定式化した関数の変化の様子を捉えることにある。具体的には、定められた区間における変化の割合とその区間の微小極限として微分係数を定義し、微分係数がグラフにおける接線の傾きとして表現されることを理解した上で、関数の特徴を捉えることである。


~積分の目標~
積分の目標は、変化する値を合計していくことによって生じる概念を捉えることである。具体的には、区分求積、定積分について知り、それらをグラフにおける面積として視覚的に捉えること。また、不定積分の概念をつかむことである。


2.解析教育の要点と注意事項
~関数に関する要点と注意事項~
現状の関数指導の実態は、受験数学を意識して式表現とグラフの作図に重点が置かれている。その影響から、関数とは式による対応関係のことと認識しがちであるが、より一般的には数と数の一意的な対応、すなわち写像としての関数が本質である。式やグラフはこの対応の表現手段であり、写像としての関数は式やグラフに先行する概念であることに注意する必要がある。教科指導においても、このことを意識しなければならない。なぜなら、解析学の実在の現象への応用を考える上では、まず実在の現象から2変量の対応に着目する視点を持ち、その後に定式化やグラフ化へ進むことが通常の流れだからである。関数が定式化された数式であるという偏った先入観は、変化する現象から2変量を抽出すると言う本来の視点を希薄にする危険性があるので注意したい。
指導の際に使う題材としては、落下する物体の時間と移動距離があげられる。やや素朴すぎる題材ではあるが、定式化しやすく、微分へ移行した際にもその式をそのまま使用することができることは意味があると考える。


~微分に関する要点と注意事項~
微分の概念は、区間変化率(平均変化率とも言う)から、その極限として瞬間変化率(単に変化率または微分係数)、そして導関数の概念へと導くのが一般的である。
ここで注意したいのは、次の3点である。
・区間変化率から瞬間変化率への拡張における定式化に若干の敷居の高さがあること
・瞬間変化率の定義式と導関数の定義式が似ており、どのような拡張が行われたのかが捉えにくいこと
・「微分」「微分する」「微分係数」「導関数」など似た言葉が多く、定義があいまいになりがちであること
微分の定義が確立されれば、先に学習した自由落下などの素朴な関数を分析することが重要である。分析手法として微分の有用性を確認しておくことは、3次関数、三角関数などの複雑ではあるが実現象として馴染みの薄い関数の微分に進む際にも学習のモチベーションを保つために有効であると考える。


~積分に関する要点と注意事項~
積分の最も身近な目標は、区分求積や定積分がグラフにおける面積として表現されることを知ることである。すなわち、区分求積を図示し、その極限として微分を取ることで定積分へと拡張する。
しかし、指導の手順としては、微分の逆演算としての不定積分から入るのが良いと考える。なぜなら、原始関数を求める際の定数の不定性は図示することが難しく、混乱を招く可能性があるからである。したがって、まずは不定積分に積分定数分の不確定性があることを説明し、原始関数は無数にあることを理解してもらうのが良いと思う。その後に、定積分を求める際には積分定数分の不確定性がキャンセルされ、積分の値は一定になることを示せばよい。そして次の段階で、定積分と面積の関係を説明するのが自然であると考える。定積分と面積の関係は、積分すれば面積が求まると言うよりはむしろ、面積を求めるために積分すると言った用途が分かりやすい。実用面を考えても、例えば自由落下する物体の移動距離を求める際には、時間と速度のグラフから移動距離は面積で表されていることを理解したうえで、「時間×速度」を合計していくと言った計算のアイデアを適用するのが自然である。


3.解析の応用
ここまでに、関数、微分、積分はおおよそ次のようなものであることを見た。すなわち、関数とは、何かしらの関係をもって変化する2つの数を書き出すものであること。微分とは、関数が増えるのか減るのか、あるいはその割合を見るものであること。積分とは、図示した関数の面積を求めるものであること。
解析で学んだことを応用するためには、それらが素朴なアイデアであることを理解している必要がある。教科指導においても受験数学を意識するあまり、数学的に高度なテクニックの解説ばかりに終始しないよう注意したい。
解析の実用性に関して言えば、特に関数の概念は普段の生活においても非常に役立つものである。例えば、学生の勉強時間を記録させ、日付と勉強時間を並べれば、これは関数である。グラフ化すれば日々の学習の励みになり、自己評価にも役立つ。
微分・積分は普段の生活の中でのご利益を時間することは少ないかもしれないが、理工系へ進む学生にとっては必須となる技術である。このことを実感してもらうためには、先に述べた自由落下の例を、物理学との関連性を示しながら、関数から始まって、移動距離、速度、加速度等を求めるのに、微分・積分が便利に働くことを示すのが良いと思う。
微分・積分を応用するには、微分は傾きを求めるもの、積分は面積を求めるもの、と言った素朴なイメージをつかんでいることが重要である。数学を道具として使うためには、問題を解く為に必要な材料は何かを判断し、それらを適当なレシピで組み立てることが必要である。したがって、教科指導では、公式の解説はコンパクトにまとめて、問題の考え方の説明に時間をかけて生徒が全体像を把握できるようにすることが必要である。



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